黙示録第13章
分類
3 この世の審判と救
4:1 - 18:24
3-(3) 第七のラッパ
11:14 - 18:24
3-(3)-(第六挿景) サタンの輩下
13:1 - 13:18
3-(3)-(第六挿景)-(a) 地上の権力者たる獣
13:1 - 13:10
註解: 本章には二つの獣につき録されている。その一つは(1−10節)地上の権力たる国王およびローマ教会のごときものを表徴し、他の一つは偽預言者を表徴する。この二者はサタンの僕として最も激しく教会を迫害し誘惑する処のものである。龍とこの二つの獣とはサタンの三位一体を形成し、最後に凡て
羔羊 によりて亡ぼされる (黙16:13。黙19:19−21。黙20:10)。
13章1節
口語訳 | わたしはまた、一匹の獣が海から上って来るのを見た。それには角が十本、頭が七つあり、それらの角には十の冠があって、頭には神を汚す名がついていた。 |
塚本訳 | また私は十の角と七つの頭とを有った(一匹の)獣が海から上って来るのを見た。その角には十の冠が被されて居り、またその頭には(神を)涜す名が記されてあった。 |
前田訳 | そしてわたしは見た。海からひとつの獣が上った。それは十の角と七つの頭を持ち、角には十の冠、頭には神を汚す名がある。 |
新共同 | わたしはまた、一匹の獣が海の中から上って来るのを見た。これには十本の角と七つの頭があった。それらの角には十の王冠があり、頭には神を冒涜するさまざまの名が記されていた。 |
NIV | And the dragon stood on the shore of the sea. And I saw a beast coming out of the sea. He had ten horns and seven heads, with ten crowns on his horns, and on each head a blasphemous name. |
註解: ヨハネは当時のローマの国家的権力をもってサタンの顕現ともいうべき神の敵と解した。これを海より出づる獣をもって表徴している。十の角、七つの頭、十の王冠はその外貌のサタンなる龍と同形であることを示す。すなわち力と智慧と支配力との完全さを示す。ただしこの獣の場合においては「七つの頭は七つの山また七人の王」で(黙17:9)ローマとその諸王とを指し、十の角はこれに類する「十人の王」(黙17:12)であって地上の王たちを指し、龍の権力が地上の権力保持者に具体化しているのを見る。頭の上に神を涜す名あり、当時ローマの王は己を「神」または「神の子」と呼ばしめた。これ神を無視し神を涜す処の名称である。かくのごとくヨハネはその眼前に大なる国家的権力として存していたローマ帝国をこの獣をもって表徴せしむることによりて、一般にこの種の権力および権力者を指しているのである。サタンはこれを利用して巧に神の民を迫害する。
辞解
[冠冕 ] 黙12:3の場合と同じく「王冠」である。なお本節の表徴につきてはダニ7:2以下参照。
13章2節 わが
口語訳 | わたしの見たこの獣はひょうに似ており、その足はくまの足のようで、その口はししの口のようであった。龍は自分の力と位と大いなる権威とを、この獣に与えた。 |
塚本訳 | 私が見たその獣は豹に似ていた。またその足は熊の足のよう、その口は獅子の口のようであった。そして(曩に天から落とされた)竜が、自分の(有っている)権能と、自分の王座と、大なる権力とをそれに与えた。 |
前田訳 | わたしが見たこの獣は豹に似ていた。その足は熊のそれのよう、口は獅子の口のようである。そして竜はその力と王位と大権とをそれに授けた。 |
新共同 | わたしが見たこの獣は、豹に似ており、足は熊の足のようで、口は獅子の口のようであった。竜はこの獣に、自分の力と王座と大きな権威とを与えた。 |
NIV | The beast I saw resembled a leopard, but had feet like those of a bear and a mouth like that of a lion. The dragon gave the beast his power and his throne and great authority. |
註解: ダニ7:3-6の三つの獣をここに引用したので、この三つの獣の特徴を一身に集めていることとなる。ダニエル書の動物がバビロン、メディヤ、ペルシャを示すとすれば、本節の獣は、これら三つの国をもって代表される国家的権力の化身であることが察せられる。すなわちこの獣の特徴はその強さと残忍さとにおいて他に秀でている。
註解: 従って本節の獣は龍の代理として龍と同じ地位に自己を置き、同じ権力を握っている。国権は本来神の立て給えるものであるけれども(ロマ13:1)それが時には本節のごとくサタンの代理として活躍する。ゆえにキリスト者は国家的権力の強き圧迫の下に迫害せられる。
辞解
[己が能力、己が座位、大なる権威] 原文によれば一つ一つ強調されている、ヨハネは当時のローマの国権の中に、サタンの凡ての性質を感得したのであろう。
13章3節
口語訳 | その頭の一つが、死ぬほどの傷を受けたが、その致命的な傷もなおってしまった。そこで、全地の人々は驚きおそれて、その獣に従い、 |
塚本訳 | またその一つの頭は(剣で)打たれて死んだようであったけれども、(不思議にも)その致命の傷が癒されたのを私は見た。すると全地の人々は獣の(癒された)ことを(見て)驚き、 |
前田訳 | その頭のひとつは瀕死の打撃を受けたかに見えたが、致命傷はいやされた。すると全地はおどろいて獣に従い、 |
新共同 | この獣の頭の一つが傷つけられて、死んだと思われたが、この致命的な傷も治ってしまった。そこで、全地は驚いてこの獣に服従した。 |
NIV | One of the heads of the beast seemed to have had a fatal wound, but the fatal wound had been healed. The whole world was astonished and followed the beast. |
註解: 七つの頭は七つの王を意味する故(黙17:9)、その王者の一人が重傷を受けて死なんとし、その獣すなわち国権もまさに滅びんとするかのごとくに見えしにもかかわらず、その〔獣の〕死の傷いやされて王権は再び確立し、全地は驚きと懼れとをもって獣に従った。ヨハネがかかる幻象を録したる所以は紀元六十八年六月ネロ帝は元老院より遣されし刺客によりて暗殺されたにもかかわらず、彼はまだ生存しているとの風説が行われ、その後ネロと称して王位を窺う者がしばしば顕われ、ネロの生存復起説が一つの伝説となった。ヨハネはこれをここに応用しドミティアヌス帝のキリスト教徒迫害をもってネロの復活と見なしてここにこれを暗示したのであろう。こうして他の凡ての場合と同じく、これを一般の場合に敷衍すれば、地上の権力はその保持者の生死や盛衰によっては左右されないことを意味する。なおヨハネはサタンの受肉とも云うべきネロを神の言の受肉のキリストと相対応せしめキリストの復活に因みてネロの復活を考えたものとも見ることを得。
辞解
[傷けられて] 「屠られて」で黙5:6の「屠られたる如き」と同語。
[その死ぬべき傷] 「彼の死の傷」で彼は獣を指す、ゆえに単に一人の王の死の意味ではなく、国権の消長を表徴する。
13章4節 また
口語訳 | また、龍がその権威を獣に与えたので、人々は龍を拝み、さらに、その獣を拝んで言った、「だれが、この獣に匹敵し得ようか。だれが、これと戦うことができようか」。 |
塚本訳 | 竜を拝んだ。彼が獣にその権力を与えた(ためにこんな不思議が行われたと思うた)からである。そして獣を(も)拝んで言うた、「誰がこの獣のように偉いか。誰が彼と戦うことが出来るか。」 |
前田訳 | 獣に権力を授けたとて竜を拝み、また獣を拝んでこういった、「だれがこの獣にかなおうか、だれが彼と戦えようか」と。 |
新共同 | 竜が自分の権威をこの獣に与えたので、人々は竜を拝んだ。人々はまた、この獣をも拝んでこう言った。「だれが、この獣と肩を並べることができようか。だれが、この獣と戦うことができようか。」 |
NIV | Men worshiped the dragon because he had given authority to the beast, and they also worshiped the beast and asked, "Who is like the beast? Who can make war against him?" |
註解: 全地の人間はここにおいて龍すなわちサタンとその代理者なる国王とを神として礼拝するようになる。この世の権力を懼れて神の義を行わざるものは、この世の君なるサタンを神とする者である。神に従わずしてサタンの僕たる国王に従うものはすなわち獣を拝するものである。かくして彼らその獣に讃美をささげ、その暴力の前に慴伏 する。
辞解
[たれかこの獣に等しきものあらん] 出15:11。 詩35:10。詩89:6。詩113:5。 イザ40:25。イザ46:5等にエホバの比類なき神に在し給うことを讃美せる言と同一の語法を用いしもの、すなわち神を拒みて獣を神として拝せることを意味す。
[誰かこれと戦うことを得ん] 獣を拝する理由が単にその暴力を懼れるためなることを示す。
13章5節
口語訳 | この獣には、また、大言を吐き汚しごとを語る口が与えられ、四十二か月のあいだ活動する権威が与えられた。 |
塚本訳 | するとその獣に、大言(壮語)し、(神に向かって)涜言をいう口が与えられ、また四十二か月の間それを実行する権力が与えられた。 |
前田訳 | そして彼に豪語とけがしをいう口が与えられ、四十二か月間、行動する権威が与えられた。 |
新共同 | この獣にはまた、大言と冒涜の言葉を吐く口が与えられ、四十二か月の間、活動する権威が与えられた。 |
NIV | The beast was given a mouth to utter proud words and blasphemies and to exercise his authority for forty-two months. |
註解: 本節は獣の権力の本質を示し、6、7節はその活用を示す。地的の権力は己に敵するものなき時、周囲に向って大言壮語をもって誇り、神をも無視してこれを涜す、その活動の期間は一定有限の期間であって 黙11:3。黙12:6、黙12:14 の期間と一致する。従って教会はこの世の荒野に生存する間サタンの下にある国家的権力に迫害せられる。
辞解
[働く] 「過す」と訳すべしとの説あり。なお本節はダニ7:8、ダニ7:20、ダニ7:25等に擬せるものである。
13章6節
口語訳 | そこで、彼は口を開いて神を汚し、神の御名と、その幕屋、すなわち、天に住む者たちとを汚した。 |
塚本訳 | そこで彼は口を開き、神に向かって涜言をいうた──その御名と、(天にある)その天幕、(すなわち)天に住む人々とを涜した。 |
前田訳 | そして神へのけがしをいう口を開いた。み名と幕屋を、また天に幕屋を張るものらを汚すためである。 |
新共同 | そこで、獣は口を開いて神を冒涜し、神の名と神の幕屋、天に住む者たちを冒涜した。 |
NIV | He opened his mouth to blaspheme God, and to slander his name and his dwelling place and those who live in heaven. |
註解: 地上の権力が暴威を振うとき、神とその民とを冒涜することは彼らの快とする処であり、彼らはまたこれによりていよいよその誇を高めんとする。
辞解
[幕屋] 神の住み給う処また神の民の住む処である。
[天に住む者] 「住む」は黙12:12の場合と同じく幕屋の中にいることで、キリスト者はその新しき生命としては天に住む者である。
13章7節 また
口語訳 | そして彼は、聖徒に戦いをいどんでこれに勝つことを許され、さらに、すべての部族、民族、国語、国民を支配する権威を与えられた。 |
塚本訳 | また彼は聖徒達と戦争をしてこれに勝つことを許され、且つ凡ての種族と民と国語と国とを支配する権が与えられた。 |
前田訳 | また、聖徒たちと戦いをして、彼らに勝つことを許された。そして彼にすべての族と民族と国語と国民への権力が与えられた。 |
新共同 | 獣は聖なる者たちと戦い、これに勝つことが許され、また、あらゆる種族、民族、言葉の違う民、国民を支配する権威が与えられた。 |
NIV | He was given power to make war against the saints and to conquer them. And he was given authority over every tribe, people, language and nation. |
註解: サタンの代理者たる獣、すなわち地上の権力者はキリスト者を迫害しこの世においてはこれに勝つ力がある。神を涜し、聖徒を涜し、聖徒と戦うことにおいては当時のローマの国のごときはその最も著しき例であった。そしてこの獣は世界万国を掌る権威を与えられていること、ローマの国権が全世界に及んでいる様なものである。実に偉大なる力を有するものはサタンとその臣下である。
辞解
本節はダニ7:21−23より思想を借りたるもの。
[戦を挑みて] 「戦を為して」で実際戦うこと、古き写本に本節前半を欠くもの多し、筆写の際この一行を見落したものと解することが普通であるが、あるいは教会が決してサタンに勝たれること無しとの立場(黙12:16)より見て後日これを除いたと見る説もある。しかしながらここでは「聖徒に勝つ」はこの世的の意味であって霊的の意味ではない(Tヨハ5:4、5)。
[族・民・国語・国] 黙5:10辞解参照。
13章8節
口語訳 | 地に住む者で、ほふられた小羊のいのちの書に、その名を世の初めからしるされていない者はみな、この獣を拝むであろう。 |
塚本訳 | かくて凡て地に住む者、宇宙開闢の時からその名を屠られた仔羊の生命の書に記されていなかった者は、彼を拝むであろう。 |
前田訳 | 地に住むものは皆彼を拝もう。彼らはすべて、世のはじめこのかた、その名がほふられた小羊のいのちの書にしるされていないものである。 |
新共同 | 地上に住む者で、天地創造の時から、屠られた小羊の命の書にその名が記されていない者たちは皆、この獣を拝むであろう。 |
NIV | All inhabitants of the earth will worship the beast--all whose names have not been written in the book of life belonging to the Lamb that was slain from the creation of the world. |
註解: 人はキリストによりて神を拝するか、キリストを離れてサタンを拝するかの何れかに結着する。そしてキリストを拝せざる凡てのものはサタンを拝しその代理たるこの世の権力を神として拝す。当時ローマのカイザルが自己を神として拝せしめし事実を表徴として録したものであるがいずれの時代にもそれは適応する。
辞解
[地に住む者] 「天に幕屋住いする者」(6節)の反対で、神の選に与らざるものすなわちその名が生命の書に記されざる者である。この生命の書は屠られ給いし羔羊 の権に属する (黙3:5。黙21:27)。なお黙17:8。黙20:12、黙20:15参照。
口語訳 | 耳のある者は、聞くがよい。 |
塚本訳 | (聞く)耳あらば(私の言を)聴け── |
前田訳 | 耳あるものは聞け。 |
新共同 | 耳ある者は、聞け。 |
NIV | He who has an ear, let him hear. |
註解: 深き注意と、文字の裏に徹する洞察力とを喚起せんとする命令語。次節に関していえるもの(黙2:7、黙2:11、黙2:17)。
口語訳 | とりこになるべき者は、とりこになっていく。つるぎで殺す者は、自らもつるぎで殺されねばならない。ここに、聖徒たちの忍耐と信仰とがある。 |
塚本訳 | 牢屋に行かねばならぬならば(素直に)牢屋に行け。剣で他人を殺すならば、自分が剣で殺されねばならぬであろう。ここに聖徒の忍耐と信仰がある! |
前田訳 | とりこへと定められたものはとりこになり、剣で殺されるべきものは剣で殺されねばならぬ。ここに聖徒の忍耐とまことがある。 |
新共同 | 捕らわれるべき者は、/捕らわれて行く。剣で殺されるべき者は、/剣で殺される。ここに、聖なる者たちの忍耐と信仰が必要である。 |
NIV | If anyone is to go into captivity, into captivity he will go. If anyone is to be killed with the sword, with the sword he will be killed. This calls for patient endurance and faithfulness on the part of the saints. |
註解: エレ15:2の語調によりたるもの、すなわち来るべき運命は必ず来るが故に、虜にせらるべきものは静にこれに従い行くべきで決して抵抗または狼狽すべきではない。
註解: マタ26:52のごとく暴力による抵抗の無効を教え給いしもの、すなわち迫害者を剣にて殺すごときことを為すべからず、唯従順に迫害を受くべしと教えしものである。キリスト者は真理を剣をもって擁護せんとしない。本節はまたキリスト者を剣にて殺すローマ人はまたやがて剣にて殺されんとの意味に解することもできる。
註解: ヨハネはここにキリスト者を慰藉 奨励し、すでに来り、またまさに来らんとする迫害に備えしめんとしているのである。迫害に際しては暴力をもって抵抗せず、唯希望をもって忍耐し、信実をもって一貫してその主を裏切ることをしないことが唯一の必要である(ロマ5:3参照)。
辞解
[忍耐] hupomonê は困難の下に耐えること(コロ1:11辞解参照)。
[信仰] ここで「信実」と訳すべしとの説あり(B3)、迫害に対して変節せざる態度を示すものとしてこの方(信仰)が優っている(Uテサ1:4)。
要義1 [この世の権力とその迫害]この世の権力、例えば財的、政治的、宗教的権力のごときは、本来神を拝することを欲せず、自己を神の地位に置かんことを欲する。それ故にこの世の権力が、思い上りて絶対的権威を恣 にせんとする時、必ずキリスト者を迫害する。何となれば「地に住む者」すなわち天に神の幕屋にその居所を有せざる凡ての人間は、如何なる有力者といえどもみなこの獣なるサタンの権力を拝するのである故、この世の権力はその横暴を恣 にすることができるけれども、唯キリスト者のみは神と主イエスとに対する信実の故に、この世の権力を恐れず、正を正と呼ぶが故に彼らはこれを迫害するのである。多少とも迫害はこの世に絶えることがないけれども、大なる迫害は以上のごとく、この世の権力がその横暴を恣 にせんとする時に必ず起る。
要義2 [迫害の際における忍耐と信実]迫害に際しての第一の重要事は、信仰をもってその望む処を疑わずに確保し、そしてこの希望の確保によって患難の下に忍耐することである。この忍耐なしにキリスト者は迫害に際してその終を全うすることができない。大なる迫害に際しては大なる忍耐を必要とする。そして第二に重要なることはその信実にある。主イエスに対し、また父なる神に対してその全心をささげ、絶対に彼を裏切らず死をもって彼に事 うる信実を必要とする。
要義3 [無抵抗主義]キリスト者は迫害に対して抵抗してはならない。いわんや暴力をもって迫害者を膺懲 すべきでもない。この世の力は神を涜しキリストを涜し、聖徒を迫害してこれに勝つように定められているのである。唯その迫害の下に忍び、その剣の下に死することによりて、かえって迫害者に勝つことができる。
要義4 [凡ての権は神より出づ]ロマ13:1以下、Tペテ2:13、14等に凡ての権は神より出づるが故に、人は上に在りて権を取る者に従うべきことを教えているのに対し、本章および黙示録全体の態度は、地的権力はサタンの代理者としてキリスト者を迫害すべきことを宣べていることは互に矛盾せずやとの疑問は起り得ることである。たしかに聖書に「権は神よリ出づ」とあるは必ずしもその権を握る者が神に服従していることを意味せず、唯神の許可なくしては何人も他人の上に権を取ることを得ずとの意味である。ゆえに神を知らざるこの世の支配者が神を涜すことは有り得ることでありむしろ当然である。従ってキリスト者が迫害されることも当然であることとなる。そしてかかる権力者を審判 き給うことは神の御手の中にあるが故に、キリスト者は唯その迫害を忍耐するのが義務であることとなる。ゆえに神を涜しサタンに事 うる権力者を、神に反するの故をもって暴力をもって位より下さんとするごときはキリスト者の為すべきことではない。
口語訳 | わたしはまた、ほかの獣が地から上って来るのを見た。それには小羊のような角が二つあって、龍のように物を言った。 |
塚本訳 | また私はもう一つ(他)の獣が地から上って来るのを見た。それには仔羊に似た二つの角があって、竜のように語った。 |
前田訳 | そしてわたしは見た。別の獣が地から上った。それは小羊に似たふたつの角を持ち、竜のように語った。 |
新共同 | わたしはまた、もう一匹の獣が地中から上って来るのを見た。この獣は、小羊の角に似た二本の角があって、竜のようにものを言っていた。 |
NIV | Then I saw another beast, coming out of the earth. He had two horns like a lamb, but he spoke like a dragon. |
註解: 第二の獣は海より出でず地より出づ、海と地とをもって全地球を代表し得ると同じく、この二つの獣をもって全世界を代表することを得、実にこの二獣は全世界に君臨するサタンの代表者である。
これに
註解: その外貌はキリストのごとく、その言う所はサタンすなわち龍のごとくである。「羊の扮装して来れる狼」(マタ7:15)であり、すなわち 黙16:13。黙19:20。黙20:10 等に現われる偽預言者である。第一の獣なる国権は外よりキリスト者を迫め、第二の獣は内よりこれを誘う。その働きは次節以下に示すごとくである。龍と獣と偽預言者とは神とキリストと聖霊のごとくに三位一体を形成す。
13章12節
口語訳 | そして、先の獣の持つすべての権力をその前で働かせた。また、地と地に住む人々に、致命的な傷がいやされた先の獣を拝ませた。 |
塚本訳 | そして第一の獣の(有つ)凡ての権力を彼(に代わってそ)の前に行い、地とそこに住む者とをして、致命の傷を癒された(かの)第一の獣を拝ませる。 |
前田訳 | それは第一の獣のすべての権力をその目の前で行使する。そして地とそこに住むものが、死の痛手をいやされた第一の獣を拝むようにする。 |
新共同 | この獣は、先の獣が持っていたすべての権力をその獣の前で振るい、地とそこに住む人々に、致命的な傷が治ったあの先の獣を拝ませた。 |
NIV | He exercised all the authority of the first beast on his behalf, and made the earth and its inhabitants worship the first beast, whose fatal wound had been healed. |
註解: 偽預言者の任務は人を欺きて神を離れサタンを拝せしめんとするに在る。第一の獣は龍よりその権威を与えられ第二の獣は第一の獣がその権を行うのを助けこれに事 えつつその前にこの権威を行使する。それ故にこの第二の獣の任務は人をして第一の獣を崇めしむるに在る。あたかもキリストは父なる神の権威を受けてこれを自ら行使し給い、聖霊はキリストがその権威を行使し給うことの助を為し給う。神、御子、聖霊の関係と同じく龍、第一の獣、第二の獣の三位一体の関係がここに成立しているのである。
辞解
[彼の前にて行ひ] 僕の形(ルカ1:74、76)を示すことである。ここでは聖霊とキリストとの関係を示す。
[死ぬべき傷の醫されたる先の獣] この世の権力とその保侍者を指す(3節)。
13章13節 また
口語訳 | また、大いなるしるしを行って、人々の前で火を天から地に降らせることさえした。 |
塚本訳 | 彼は(驚くべき)大きな徴をする──天から火を(呼び、)地に、人々の(目の)前に降らせる(ようなことをすらする)。 |
前田訳 | そして大きな徴を行なう。すなわち火を人々の目の前で天から地へと降らせる。 |
新共同 | そして、大きなしるしを行って、人々の前で天から地上へ火を降らせた。 |
NIV | And he performed great and miraculous signs, even causing fire to come down from heaven to earth in full view of men. |
13章14節 かの
口語訳 | さらに、先の獣の前で行うのを許されたしるしで、地に住む人々を惑わし、かつ、つるぎの傷を受けてもなお生きている先の獣の像を造ることを、地に住む人々に命じた。 |
塚本訳 | また(第一の)獣の前で行うことを許された(種々の)徴によって、地に住む者を惑わし、剣の傷を受けて(死んだようになり、再び)生き(返っ)た(かの)獣(を崇めるために、そ)の像を作るように地に住む者に言う。 |
前田訳 | そして獣の前で行なうことを許された徴によって地に住むものを惑わし、剣の痛手を受けつつも生きのびた獣の像を作るようにと、地に往むものにいった。 |
新共同 | 更に、先の獣の前で行うことを許されたしるしによって、地上に住む人々を惑わせ、また、剣で傷を負ったがなお生きている先の獣の像を造るように、地上に住む人に命じた。 |
NIV | Because of the signs he was given power to do on behalf of the first beast, he deceived the inhabitants of the earth. He ordered them to set up an image in honor of the beast who was wounded by the sword and yet lived. |
註解: 偽預言者も真の預言者のごとくに大なる徴を行う力がある。そして預言者は神の前にこれを行い、偽預言者は獣の前にてこれを行う。預言者は人をして神を拝せしむることをその目的とし、偽預言者は獣の像を造りてこれを拝せしむることを目的となす。たしかに当時の偽預言者はあたかもキリストのごとくに装いて、偉大なる能力を顕わし、人をして彼を信ぜしめ、これによりて人々をカイザルの像を神として拝するカイザル礼拝に導かんとしたのである。当時ローマのカイザルはその権力を強大ならしむる目的をもってカイザル礼拝を強行し、これによりてこれに従わざるキリスト者を迫害した。
辞解
[火を天より地に降らせ] T列18:38のエリヤの力に匹敵することを示す。
[獣の前にて] 「神の前にて」と同様、その僕としてとの意味。
[惑わし] あたかもそこに真の信仰と能力とがあるかのごとくに思わしめる。
[剣に打たれてなお生ける] 私訳「剣の傷を負いて生き返れる」でネロに関する当時の風説に因みて、地上の主権を握りて神を蔑 する者を意味す。キリスト者にとりて最も重大なる罪は、神を離れてサタンとその使とを拝するに至ることである。そしてヨハネの当時においてはそれがネロ、ドミティアヌス等ローマの国権およびその国王の形においてあらわれた。
[像を造る] 具体的および抽象的の双方の意味に取るべきである。
13章15節
口語訳 | それから、その獣の像に息を吹き込んで、その獣の像が物を言うことさえできるようにし、また、その獣の像を拝まない者をみな殺させた。 |
塚本訳 | 且つ彼はその獣の(生命の)息を吹き入れて獣の像に口を利かせ、また獣の像を拝まない者をば誰でも殺すことを許された。 |
前田訳 | そして獣の像に霊を与えることが許された。それは、獣の像が口もきけるため、獣の像を拝まぬものは皆殺されるためであった。 |
新共同 | 第二の獣は、獣の像に息を吹き込むことを許されて、獣の像がものを言うことさえできるようにし、獣の像を拝もうとしない者があれば、皆殺しにさせた。 |
NIV | He was given power to give breath to the image of the first beast, so that it could speak and cause all who refused to worship the image to be killed. |
註解: 偽預言者はさらに進んで大なる徴を行い獣の像に生命を与え、物言わしめまた己を拝せぬものを殺さしめる。その意味は当時のカイザル礼拝の強要は、カイザルの像をあたかも生命あるもののごとくに取扱い、またこれを拝せざるものを殺したことを指示したものである。獣の像が物言い、また人を殺す、偽預言者の狡計の極致でありサタンの力の如何に強きかを示す。
辞解
[息] また「霊」で生命の息を意味す。
13章16節 また
口語訳 | また、小さき者にも、大いなる者にも、富める者にも、貧しき者にも、自由人にも、奴隷にも、すべての人々に、その右の手あるいは額に刻印を押させ、 |
塚本訳 | そして小さい者も大きい者も、金持ちも貧乏人も、自由人も奴隷も、悉くその右手かあるいは額に印をつけさせ、 |
前田訳 | そして小さいものも大きいものも、富むものも貧しいものも、自由人も奴隷も、すべて右手か額に目じるしをつけるようにした。 |
新共同 | また、小さな者にも大きな者にも、富める者にも貧しい者にも、自由な身分の者にも奴隷にも、すべての者にその右手か額に刻印を押させた。 |
NIV | He also forced everyone, small and great, rich and poor, free and slave, to receive a mark on his right hand or on his forehead, |
註解: 獣を拝する者は一人の例外なしにその徽章 を何人にも見得る場所に押印または彫刻せられ、これによりて獣の所属なることが明かにせられる。これはあたかも神の僕がその額に印されるがごときものである(黙7:3)。これによりサタンが己が民を区別してこれを保ちこれを守ることを意味する。
辞解
[手、額] 何人にも見易き場所で隠れることができないことを意味す。または額は告白、手は活動の意味とも見ることができる(A2)。
[徽章 ] 押捺または彫刻せられし表示であるがこの場合は黙7:3の「印」と同じく具体的の徽章 ではなく一つの表徴である。サタンは己のものを知り、これを区別しこれを確保することを示す。ゆえにこの徽章 が(1)公文書に押されし王の印、(2)皇帝デキウス(二四九−二五一)の迫害の際における安全保証票、(3)兵士、奴隷、信徒等の額に押されし王、所有者、宗教の印等の何れかを指すと決定する必要はない、ただしヨハネは恐らくこの(3)より示唆を得たものであろう。
[受けしむ] 原文「彼らに与えしむ」で複数主格が省略されているので種々の解釈があるけれども、単に偽預言者の命を受けて働く者どもの意ならん。
13章17節 この
口語訳 | この刻印のない者はみな、物を買うことも売ることもできないようにした。この刻印は、その獣の名、または、その名の数字のことである。 |
塚本訳 | 【そして】その獣の印かあるいはその(獣の)名の数をつけている者でなければ売買が出来ないようにする。 |
前田訳 | それは獣の名かその名の数かの目じるしなしのものは、だれも売り買いできないためである。 |
新共同 | そこで、この刻印のある者でなければ、物を買うことも、売ることもできないようになった。この刻印とはあの獣の名、あるいはその名の数字である。 |
NIV | so that no one could buy or sell unless he had the mark, which is the name of the beast or the number of his name. |
註解: サタンの迫害の巧なる手段は人をその生活において脅かすに在る。当時のキリスト者も一般に嫌忌せられし結果常にその営業上の迫害を受けたことであろう。キリスト者に対し売買を禁ずる法令が発せられたことは歴史上に見出し得ず、またヨハネは必ずしもかかる場合を考えたのではない、唯実際上これに相当するごとき迫害が起りまた起ることを予想したのであろう。
その
註解: 16節の徽章 の性質がここに説明せられている。この「獣」は第一の獣を指すと見るべきである。
辞解
[もしくは] 「すなわち」の意味に解して可なり(S3)。「換言すれば」に等し。
13章18節
口語訳 | ここに、知恵が必要である。思慮のある者は、獣の数字を解くがよい。その数字とは、人間をさすものである。そして、その数字は六百六十六である。 |
塚本訳 | ここに知恵が(蔵されて)ある。理知ある者は(この)獣の数をかぞえよ。それは人間の数である。(人の名である。)そして(その人の名を数うれば、)その数は六百六十六! |
前田訳 | ここに知恵がある。心あるものは獣の数をかぞえよ。それはひとりの人の数である。その数は六百六十六。 |
新共同 | ここに知恵が必要である。賢い人は、獣の数字にどのような意味があるかを考えるがよい。数字は人間を指している。そして、数字は六百六十六である。 |
NIV | This calls for wisdom. If anyone has insight, let him calculate the number of the beast, for it is man's number. His number is 666. |
註解: この数は古来種々に解せられたけれども十九世紀末より多くの学者によりネロ帝を指すとと解せられ、この解が最も適切である。ヨハネは死にてまた生くべき風説を有する皇帝ネロをもってサタンの化身なる獣と見、彼をもって神に敵するあらゆるサタンの力の代表者とした。ゆえにヨハネはネロを用いて神に敵する地上のサタン的力を一般に意味したものと見るべきである。そして当時においてはこれを明白に表顕することが危険であったので、当時多く行われし方法により数字をもって人名を表顕したのである。「茲に智慧あり」これをさとるには聖き智慧をもってしなければならぬ。「心ある者」すなわち理解力ある者はヨハネの言わんとする処を解してこの数字を読むことができるであろう。
辞解
[六百六十六] ギリシャ文字およびヘブル文字はそれぞれ数字上の価値を代表していた。それ故に人名を組立てる各文字の数値を加算して六百六十六に相当するものが、ここに言わんとする人名である。古代教父はギリシャ文字によりこれを Teitan または Lateinos または Gaios Kaisar 等と解していたが近代に至り「皇帝ネロン」に相当するヘブル文字の数値が六百六十六なることが発見され、またこれを「皇帝ネロ」とすれば六百十六となり黙示録の異本に相当することよりこの説最も有力となり、他の諸説(トラヤヌス、ハドリヤヌス、ヴェスパシアヌス、開闢 時代の混沌、ローマ皇帝等々)を排除した。ヘブル文字は NRON KSR でそれぞれ 50+200+6+50:100+60+200 に相当する。
要義1 [偽預言者の働き]13:11−16の偽預言者が如何なる種類の人を指しているかは困雖なる問題であるが、ヨハネは必ずしも当時のローマにおける祭官や宗教家等にしてカイザル礼拝の讃美者を指したのではなく、如何なる時代においても必ず起るべき種類の預言者、教師、宗教家、すなわち当時の権力に阿附 して、それを讃美擁護し、もってサタン礼拝の正しきことを人々に宣伝し、神を拝する者を非としてこれを迫害する理由を造り出す処の人々を指したものと見るべきである。この世の力、すなわちサタンの権を受けたる獣の暴威を振う処には必ずこの種の偽預言者あらわれ出で、もってキリスト者の立場を益々困難に陥れるのである。この種の偽預言者は実によくサタンの性質をあらわしている。
要義2 [偽預言者の性質]11節の示すがごとく、形は羔羊 のごとくにして龍のごとくに語るものが偽預言者である。人は往々外形を見て心を見ることができないために偽預言者に惑わされるに至るのである。偽預言者はサタンとその代理とを拝することがあたかも神を拝すると同一であるかのごとくに人をして感ぜしむる力を有っている。これが偽預言者の恐るべき点であって、サタンに対する注意を怠らないことの必要がここにある。
要義3 [偶像としてのローマ皇帝]ローマ皇帝がその臣民に己を神として礼拝せしめ、これを死をもって強要したのは、政治上の統一の目的のためであった。日本人民の日本の皇室に対するごとき国民の宗家としての自然の崇敬とは性質を異にしていた。それ故にローマ皇帝を拝することは、ローマ皇帝以外に全く神無きことを認めることであり、すなわち彼を神父またはキリストの地位に置くことであって、キリスト者にはそれができなかった。それ故に自己の権力を恣 にせんとし、自己の悪事をもこれを神の行為と認めしめんとする暴君は必ずキリスト者を迫害した。
要義4 [売買の禁止]売買の禁止は営業の停止であり、また日用必要品の購入禁止である。かくてキリスト者はその生活の手段を奪われてしまうのである。免職、同業者よりの排斥、家庭または故郷よりの逐出し等は今日もキリスト者の受けつつある迫害の手段であって、結局において売買することをできないようにされることとなる。
黙示録第14章
3-(3)-(第七挿景) 最後の審判の前提たる七つの光景
14:1 - 14:20
3-(3)-(第七挿景)-(a) シオンの山の
註解: 第12、13章が教会に対するサタンの迫害を示すに対し、本章はこの迫害にもかかわらず
羔羊 の勝利の姿および福音の進展の有様を描く、七つの苦難の金の鉢が傾けられ最後の苦難が来る前に希望に充てる幻象を示しているのはヨハネの偉大なる技巧である。この幻象は七つに分れこれが四と三とに分れ、シオンの山に始まり次第に高きに上りて遂に天の至聖所の光景に至っており、整然たる秩序をもって録されている、そしてその光景は救いと審判との全体に及んでいる。
14章1節 われ
口語訳 | なお、わたしが見ていると、見よ、小羊がシオンの山に立っていた。また、十四万四千の人々が小羊と共におり、その額に小羊の名とその父の名とが書かれていた。 |
塚本訳 | また私は(一つの異象を)見た。すると視よ、仔羊がシオンの山(の頂)に立ってい給うた。そして、額に仔羊の名とその父(なる神)の名とを書かれている十四万四千人(の者)が彼と一緒にいた。(四十二か月の獣の時代は過ぎ、今や仔羊の支配が始まったのである。) |
前田訳 | そして、わたしは見た。見よ、シオンの山に、小羊と、彼とともに十四万四千人が立つ。彼らの額には、小羊の名とその父の名が書かれている。 |
新共同 | また、わたしが見ていると、見よ、小羊がシオンの山に立っており、小羊と共に十四万四千人の者たちがいて、その額には小羊の名と、小羊の父の名とが記されていた。 |
NIV | Then I looked, and there before me was the Lamb, standing on Mount Zion, and with him 144,000 who had his name and his Father's name written on their foreheads. |
註解: 一方に教会の迫害あり(12−13章)荒野における戦闘の教会の姿が録されている間に、本章において勝利の教会の姿と神の敵の審判とが予じめ示され、これが15−19章において具体的に展開する。シオンの山はエルサレムの別名でここでは天のシオン、上なるエルサレム (ヘブ12:22−24。ガラ4:26) を指す(S1、D0)と見るよりも地上における新天新地の光景を予見せるものと見るを可とす。そこには羔羊 立ち給い黙7:3、4に録されし十四万四千人すなわち全教会の聖徒が羔羊 キリストと偕にいる 。そしてその額には黙13:16、17の徽章 と正反対に神とキリストの御名をもって印(黙7:3)せられていることを見る。まことに美わしき光景で、21章以下の新しきエルサレムの光景が予じめヨハネに示されたのである。
辞解
[十四万四千人] 黙7:3、4のそれとは別の一団であると解し、理由として定冠詞無きこと、特別に潔き人なること(4節)、「初穂」なること等を掲げる学者(H0、S3)があるけれども充分なる理由とならない。また黙7:3、4の十四万四千人をユダヤ人中のキリスト者と解する説は本章に至りて差し支えを生ず(B3)。
[シオンの山] 本節においては地上に降れる天のエルサレムを予指す、終りの日にメシヤは救われし者と共にシオンの山に立つとの思想は旧約聖書に多く存在する (ヨエ3:5。詩2:6。詩78:54、詩78:68。イザ24:23) 。なお第一の獣は海より(黙13:1)第二の獣は地より(黙13:11)出で来れるに対し羔羊 は山に立ち給う事は良き対照をなす。
14章2節 われ
口語訳 | またわたしは、大水のとどろきのような、激しい雷鳴のような声が、天から出るのを聞いた。わたしの聞いたその声は、琴をひく人が立琴をひく音のようでもあった。 |
塚本訳 | (たちまち)私は大水の轟きのような、また大雷の轟きのような(大きな)声を天から聞いた。そして私が聞いたその声は(あたかも)竪琴を弾く竪琴弾きの声のようであった。 |
前田訳 | そしてわたしは天から声を聞いた。それは多くの水のひびきのよう、大きな雷のひびきのようであった。そして、わたしが聞いた声は竪琴をひく琴ひきの声のようであった。 |
新共同 | わたしは、大水のとどろくような音、また激しい雷のような音が天から響くのを聞いた。わたしが聞いたその音は、琴を弾く者たちが竪琴を弾いているようであった。 |
NIV | And I heard a sound from heaven like the roar of rushing waters and like a loud peal of thunder. The sound I heard was like that of harpists playing their harps. |
14章3節 かれら
口語訳 | 彼らは、御座の前、四つの生き物と長老たちとの前で、新しい歌を歌った。この歌は、地からあがなわれた十四万四千人のほかは、だれも学ぶことができなかった。 |
塚本訳 | 彼らは玉座の前と四つの活物と(二十四人の)長老の前とで新しい歌をうたう。そして(仔羊の血を以て)地(上の人々の中)から買われた(神を信ずる)十四万四千人(の者)の外、誰もこの歌を聞くことは出来なかった。 |
前田訳 | 彼らは新しい歌を王座の前と四つの生きものと長老たちの前でうたった。地上からあがなわれた十四万四千人のほかは、だれもこの歌を学びえなかった。 |
新共同 | 彼らは、玉座の前、また四つの生き物と長老たちの前で、新しい歌のたぐいをうたった。この歌は、地上から贖われた十四万四千人の者たちのほかは、覚えることができなかった。 |
NIV | And they sang a new song before the throne and before the four living creatures and the elders. No one could learn the song except the 144,000 who had been redeemed from the earth. |
註解:羔羊 と共に天の神の御座はシオンの山に下りそこにある十四万四千人すなわち全キリスト者の一団は天地に響き渡るごとき大なる声をもって立琴の音のごとく美わしく新しき世界を讃美する新しき歌を歌う。この天における勝利と歓喜とがやがて来るべきことを知るならば、荒野における教会は如何なる苦難の中にありてもこれに耐えることができる。この歌はかつて四つの活物 と二十四人の長老によりて歌われしもの(黙5:8、9註参照)と相類するものなるべく、今は彼らの前において十四万四千人の聖徒によって歌われる。そしてこの歌はキリストによりて贖われる者の外は何人もこれを学習し理解することができない。
辞解
[水、雷霆 ] 大なる響の例として本書中にしばしば用いられる。引照を見よ。
[彼ら] 何物を指すか不明なる故種々の異論あり、シオンの山を地上のエルサレムと解する学者はこれを十四万四千人に適用することができず、従ってこれを不定の声または天使たちの声と解し十四万四千人は地上においてこれを学び、天の声に伴って歌うと解す(B3、S3、E0、A1、Z0等大多数)。反対にシオンを天のエルサレムと解する学者はこの「彼ら」を当然十四万四千人と解す、この解の優っていることは当然である(B1、D0)。予はこれを天のエルサレムが地上に降れる光景の予見と解するが故に神の御座も共に地上に降つたものと見て差支えがない(黙21:3)。
[地より贖われたる] 天国の民たることを示す証拠となる。
[誰も学び得る者なかりき] ヨハ14:17。Tコリ2:14。霊に属する者のみ霊のことを学び知ることを得。
14章4節
口語訳 | 彼らは、女にふれたことのない者である。彼らは、純潔な者である。そして、小羊の行く所へは、どこへでもついて行く。彼らは、神と小羊とにささげられる初穂として、人間の中からあがなわれた者である。 |
塚本訳 | 彼らは(その身を)女に汚されなかった人達である。(皆)童貞であるからである。彼らは(地上にあった時、)仔羊の行く所には何処にでも随いて行く(のを常とした)人達である。彼らは人々の中から買われて、神と仔羊とのために初穂(の献げ物)となった(人達である)。 |
前田訳 | 彼らは女性に汚されぬ人々であった。彼らは童貞であった。彼らは小羊がどこへ行こうと従ったものであり、人々からあがなわれて神と小羊への初穂にされたものである。 |
新共同 | 彼らは、女に触れて身を汚したことのない者である。彼らは童貞だからである。この者たちは、小羊の行くところへは、どこへでも従って行く。この者たちは、神と小羊に献げられる初穂として、人々の中から贖われた者たちで、 |
NIV | These are those who did not defile themselves with women, for they kept themselves pure. They follow the Lamb wherever he goes. They were purchased from among men and offered as firstfruits to God and the Lamb. |
註解: 4、5節には十四万四千人の性質につきて録す。第一に彼らは純潔であって偶像と姦淫せず潔き処女として一人の夫なるキリストに許嫁せられしものである。第二に彼らは常にキリストとの霊の交りにおいて歩むものである。かくしてその性質も、その行為も共にキリストに相応しきものであった。
辞解
[女に汚されぬもの] (1)童貞未婚の生涯を終れるもの、(2)特に性的生活において純潔なりしもの、(3)キリスト者中の特に聖き選ばれたる人々、(4)偶像に汚されぬもの、すなわちその心を神とキリスト以外の何物にも向けざるもの等種々に解せられる。黙示録全体の構造より見て(4)を採る。ただし偶像を拝する心と淫行とは密接の関係あり。(4)の中にその他も含まれること勿論である。
[潔き者なり] 原語「そは童貞(処女)なればなり」と訳すべきで、男子にもこの童貞または処女に相当する parthenos なる文字はしばしば用いられている故差支えがない。ここでは上述のごとく独身の生涯を意味せず神に対する純潔なる生涯をいう。
[羔羊 の往き給うところに随う] (1)キリストに倣 うこと、(2)完全なる弟子たること、(3)殉教の死を遂ぐること等種々に解せられているけれども、(4)常に霊において彼と交わり彼のごとくに生きまた動くことと解す。
註解: 第三の点は彼らが初穂として神と羔羊 とにささげられるということである。彼らはイエスの血を代価として人間の中より買い取られしものである。ここに「初穂」はキリスト者の全体を指すが故に人類の中より選び別たれて神にささげられしものを意味す。
辞解
[初穂] 二つの意味に解することを得。その一はこの十四万四千を初穂として次々に多くの救われるものが神の御座の前に現われることを意味し、その二は十四万四千人をキリスト者の全体の表徴的数字と解し、この人々が初穂ですなわち全キリスト者を指し、人間全体の中より選別せられて神にささげられし人々の意味に解す。各ヤコ1:18辞解参照。
口語訳 | 彼らの口には偽りがなく、彼らは傷のない者であった。 |
塚本訳 | その口には虚偽がない。彼らは瑕なき者である。 |
前田訳 | 彼らの口にはいつわりがなく、純粋無垢であった。 |
新共同 | その口には偽りがなく、とがめられるところのない者たちである。 |
NIV | No lie was found in their mouths; they are blameless. |
註解: 第四に口に虚偽なきことで、彼らは神に対して生きるが故に、虚偽の生活に堪えない。第五に瑕 なき者であり、神にささげらるべき資格を有する者である。キリスト者はキリストの血によりて凡ての罪を洗い潔められるが故に神の前に瑕 なきものである (エペ1:4。コロ1:22。Uペテ3:14)。
附記 [十四万四千人について]7:1以下にある十四万四千人をユダヤ人中よリ選ばれしキリスト者と解するものは、本章の十四万四千人が全然ユダヤ人と無関係なることよりこの両者の同一なりや否やにつき疑義を生ず、またこの人々をキリスト者の一部と見るものはその他のキリスト者は新しき歌を学び得ざることとなり、彼らとは別の種類となる、かかることは有り得ない。またシオンの山を地上のエルサレムと解する者は、この新しき歌が何者によりて歌われしかにつき曲解を必要とし、かくして諸方面に解釈上の不統一を来す。もし上記のごとくに解するならば、かかる解釈上の困難や不統一は消失する。そして、この種の中間挿話は多く過去または未来の光景を現在に描かんと努力しているのであって、従って時の関係においての前後は当然のこととして受納れなければならない。すなわち7:1−8はキリスト者が選ばれる時の光景であり、7:9−17および14:1−5は未来において起こるべき光景の予示である。
註解: シオンの山には救われし者の全軍の讃歌の声が高く揚げられている間に他方中空には福音が声高く宣伝えられて地に住む者に呼びかけられる。
口語訳 | わたしは、もうひとりの御使が中空を飛ぶのを見た。彼は地に住む者、すなわち、あらゆる国民、部族、国語、民族に宣べ伝えるために、永遠の福音をたずさえてきて、 |
塚本訳 | また私はもう一人(他)の天使が、地に住む者、(すなわち)あらゆる国民と種族と国語と民とに宣べ伝うべき永遠の福音を携えて中空を飛ぶのを見た。 |
前田訳 | そしてわたしは見た。別の天使が中空高く飛び、地に住むものに、すなわちすべての国民と部族と国語と民族とに伝える永遠の福音をたずさえていた。 |
新共同 | わたしはまた、別の天使が空高く飛ぶのを見た。この天使は、地上に住む人々、あらゆる国民、種族、言葉の違う民、民族に告げ知らせるために、永遠の福音を携えて来て、 |
NIV | Then I saw another angel flying in midair, and he had the eternal gospel to proclaim to those who live on the earth--to every nation, tribe, language and people. |
註解: 中空を飛びて声を揚ぐるが故に何処よりも何人よりもこれを見聞することができる。
辞解
[他の] 新しく現われし天使のこと、6節以下本章に全体にあらわれるものはみな新なる登場人物である。場面の変化を与えて劇的光景を顕著ならしむる。
かれは
14章7節
口語訳 | 大声で言った、「神をおそれ、神に栄光を帰せよ。神のさばきの時がきたからである。天と地と海と水の源とを造られたかたを、伏し拝め」。 |
塚本訳 | 彼は大声に言うた、「神を畏れ、彼に栄光を帰せよ。(今や)その審判の時が来たのである。天と地と海と水の源とを造り給うた者を拝め。」 |
前田訳 | 大声にいわく、「神をおそれて栄光を帰せよ、彼の裁きの時は来た。天と地と海と水の源との造り主を拝め」と。 |
新共同 | 大声で言った。「神を畏れ、その栄光をたたえなさい。神の裁きの時が来たからである。天と地、海と水の源を創造した方を礼拝しなさい。」 |
NIV | He said in a loud voice, "Fear God and give him glory, because the hour of his judgment has come. Worship him who made the heavens, the earth, the sea and the springs of water." |
註解: この天使の宣伝える所は「永遠の福音」であり、宣伝えられる者は全世界の諸国民、諸民族であり、その命令の内容は審判の近接と神を畏 れてこれを拝しこれに栄光を帰することである。極めて当然のことであるけれども実際においてはこの命令が無視されている。何故キリストとその十字架を信ぜよと言われれなかったかについては、神を畏 れこれを拝し、栄光を彼に帰する者は、当然その御子をも敬うはずであるから。かくして世の終りの前に福音は全世界に宣伝えられる(マタ24:15)。
辞解
[地に住むもの] kathemenoi を用い、他の場合のごとく katoikeô を用いない理由は、多くの学者は同一の意味であると解しているけれども、おそらくヨハネは他の場合のごとく「神に反するもの」の意味を持たしめないためにこの語を用いたものであろう。▲kathêmai は「座する」kathemenoi はその複数分詞。katoikeô は「居住する」「住む」の意。
[国・族・国語・民] 黙5:9註参照。
[永遠の福音] 神の救いに関する経綸の福音は永遠の昔より永遠の未来に渡る処のものである。
[既に至りたればなり] 他の場合と同じく未来の事実をすでに起れるものと見て録せるもの。
[天、地、海、水の源] 第一乃至 第四のラッパおよび金の鉢の審判の行われる処 (黙8:7−12。黙16:2−9)。
註解: 次に起れる宣言はバビロンの壊滅である。
14章8節 ほかの
口語訳 | また、ほかの第二の御使が、続いてきて言った、「倒れた、大いなるバビロンは倒れた。その不品行に対する激しい怒りのぶどう酒を、あらゆる国民に飲ませた者」。 |
塚本訳 | するともう一人(他の)、第二の天使が(これに)続いて言うた、「倒れた、倒れた、大なるバビロンが!その淫行の憤怒の葡萄酒をあらゆる国民に飲ませた者!」 |
前田訳 | また、第二の天使が後についていう、「倒れた、倒れた、大いなるバビロンは。あれこそその不義ゆえのみ怒りの酒をすべての民に飲ませたもの」と。 |
新共同 | また、別の第二の天使が続いて来て、こう言った。「倒れた。大バビロンが倒れた。怒りを招くみだらな行いのぶどう酒を、諸国の民に飲ませたこの都が。」 |
NIV | A second angel followed and said, "Fallen! Fallen is Babylon the Great, which made all the nations drink the maddening wine of her adulteries." |
註解: ローマは当時往々にしてバビロンと呼ばれていた、その世界帝国の主都たる点、その奢侈 と腐敗、その神の民に対する敵対関係等において両者に共通なるものがあったからである(Tペテ5:13)。ヨハネはこのローマの滅亡を叫ぶ天使の声を聞いたのである。而してこのローマは世界各国民をその偶像崇拝と道徳的腐敗との葡萄酒をもって酔わしめ、その結果彼らは神の憤恚 の葡萄酒の杯を飲ましめられる。この際ローマを眼中に置きバビロンをその表徴として凡ての世界的文化、世界的権力を指せるものと解すべきである。
辞解
[▲▲従ひて] 口語訳の「続いて」の意。
[倒れたり、倒れたり] イザ21:9の語調によれるもの。
[大なる] バビロンの形容として常に用いらる (黙16:19。黙17:5。黙18:2、黙18:10、黙18:21。ダニ4:27)。
[バビロン] ローマを指し、従ってまたあらゆる世界的権力、世界的文化にして神を離れているものを指す。
[己が淫行より出づる憤恚 の葡萄酒] 「己が淫行の怒の葡萄酒」と訳すべきで(黙18:3参照)二つの観念を一つにまとめしものである。すなわちその一は「己が淫行の葡萄酒」その二は「神の怒の葡萄酒」である。前者はローマがその偶像崇拝と道徳的腐敗殊にその性道徳の紊乱 をもって諸国民に悪影響を与えしこと (黙17:2、黙17:4。エレ28:7。エレ51:7) 。後者はこの罪に対して神が憤恚 の葡萄酒の杯を飲ましむること(10節。黙16:19。イザ51:17。エレ25:15−17)。
14章9節 ほかの
口語訳 | ほかの第三の御使が彼らに続いてきて、大声で言った、「おおよそ、獣とその像とを拝み、額や手に刻印を受ける者は、 |
塚本訳 | するともう一人(他の)、第三の天使が彼らに続いて大声に言うた、「もし獣とその像とを拝み、額かあるいは手に(その獣の名の)印を受ける者があれば、 |
前田訳 | また、第三の天使がその後について、大声でいう、「獣とその像を拝み、しるしを額か手に受けるものも、 |
新共同 | また、別の第三の天使も続いて来て、大声でこう言った。「だれでも、獣とその像を拝み、額や手にこの獣の刻印を受ける者があれば、 |
NIV | A third angel followed them and said in a loud voice: "If anyone worships the beast and his image and receives his mark on the forehead or on the hand, |
14章10節
口語訳 | 神の怒りの杯に混ぜものなしに盛られた、神の激しい怒りのぶどう酒を飲み、聖なる御使たちと小羊との前で、火と硫黄とで苦しめられる。 |
塚本訳 | その人もまた神の怒りの酒杯に注がれた雑なき神の憤怒の葡萄酒を飲み、且つ聖なる天使の前と仔羊の前とにおいて、(永遠に)火と硫黄で苦しめられるであろう。 |
前田訳 | 同じく神の憤りの酒を飲まねばならない。それはみ怒りの杯に水を割らずにつがれたもの。彼は聖なるみ使いたちと、小羊の前で硫黄の火に苦しめられよう。 |
新共同 | その者自身も、神の怒りの杯に混ぜものなしに注がれた、神の怒りのぶどう酒を飲むことになり、また、聖なる天使たちと小羊の前で、火と硫黄で苦しめられることになる。 |
NIV | he, too, will drink of the wine of God's fury, which has been poured full strength into the cup of his wrath. He will be tormented with burning sulfur in the presence of the holy angels and of the Lamb. |
註解: 第一の御使(6節以下)は福音を宣伝え、第二の御使(8節)はローマの滅亡を示し、第三の御使(9節以下)は神に叛き福音を信ぜずして獣の像を拝しその徽章 を帯ぶるもの(黙13:16)に対する激しき神の怒と審判とを告示している。これ一面にこれらの不信の徒に対する警戒でもあるけれども、むしろそれよりも聖徒の苦難に対する忍耐の奨励である。
辞解
聖徒に対する迫害と相対応する審判が不信の徒に及ぶごとくに録されていることに注意すべし(ルカ12:9)。「獣とその像を拝するもの」は「神を拝する者」と対立し、「徽章 」は黙14:1の額に記されし「神及羔羊 の名」と対立し、「怒の酒杯」および「憤恚 の葡萄酒」は「姦淫の葡萄酒」と対立し、「聖なる御使たちおよび羔羊 の前」にて苦しめられることは当時のキリスト者が劇場等において多くの観衆の面前において迫害せられしことに対立する。
[怒] orgê は「憤恚 」thumos と異なり後者は一時に爆発する忿怒の情であり、前者は正義に基ける永続的公憤の情を意味する。
[火と硫黄] 審判の激しさを示し、最も重き処刑の場所を指す公式(黙19:20。黙20:10、黙20:14。黙21:8。イザ30:33。エゼ38:22)。
[混りなき] 水を混和せざること。
14章11節 その
口語訳 | その苦しみの煙は世々限りなく立ちのぼり、そして、獣とその像とを拝む者、また、だれでもその名の刻印を受けている者は、昼も夜も休みが得られない。 |
塚本訳 | 彼らの苦痛の煙は永遠より永遠に立ち上がって、獣とその像とを拝む者、また、誰でもその名の印を受ける者は(これに苦しめられ、彼らは)昼も夜も休息を得ることが無い。」 |
前田訳 | その苦しみの煙は永遠から永遠に上りゆく。獣とその像を拝むもの、その名のしるしを受けるものは昼も夜も休みを得まい。 |
新共同 | その苦しみの煙は、世々限りなく立ち上り、獣とその像を拝む者たち、また、だれでも獣の名の刻印を受ける者は、昼も夜も安らぐことはない。」 |
NIV | And the smoke of their torment rises for ever and ever. There is no rest day or night for those who worship the beast and his image, or for anyone who receives the mark of his name." |
14章12節
口語訳 | ここに、神の戒めを守り、イエスを信じる信仰を持ちつづける聖徒の忍耐がある」。 |
塚本訳 | ここに聖徒達、(すなわち)神の戒律とイエス(へ)の信仰を守る者の忍耐がある。 |
前田訳 | ここに、神のおきてとイエスのまことを守る聖徒らの忍耐がある」と。 |
新共同 | ここに、神の掟を守り、イエスに対する信仰を守り続ける聖なる者たちの忍耐が必要である。 |
NIV | This calls for patient endurance on the part of the saints who obey God's commandments and remain faithful to Jesus. |
註解: 10節の審判は一時的にあらず神に敵する者の上に永遠に留る、かつこの苦痛は連続的であって休息を得ることができない。然るに現在において迫害されるキリスト者の苦痛は一時的であり断続的である。このことを思うことによりてキリスト者は如何なる患難をも終りまで耐え忍ぶことができる。ここにも聖徒の慰めがある。
辞解
[苦痛の煙] ソドム、ゴモラの光景を偲ばしめられる(創19:28)。
[茲 にあり] ヨハネが特に信徒に暗示を与えてこれを力附けまたは慰めんとする場合に用いる語(黙13:10、黙13:18。黙17:9)。
14章13節
口語訳 | またわたしは、天からの声がこう言うのを聞いた、「書きしるせ、『今から後、主にあって死ぬ死人はさいわいである』」。御霊も言う、「しかり、彼らはその労苦を解かれて休み、そのわざは彼らについていく」。 |
塚本訳 | また私は天から声が(こう)言うのを聞いた、「書け、『今から後主にあって死ぬる死人は幸福である。』」御霊も言い給う、「然り、彼らはその労苦を休息む(ことが出来る)であろう。その(為した)業が彼らに随いて行くのであるから!」と。 |
前田訳 | またわたしは天からの声を聞いた。いわく、「書きしるせ、『さいわいなのは、今よりのち主にあって死ぬもの』と」。霊はいう、「然り、彼らはその労苦から休らおう。そして彼らのわざが後に従おう」と。 |
新共同 | また、わたしは天からこう告げる声を聞いた。「書き記せ。『今から後、主に結ばれて死ぬ人は幸いである』と。」“霊”も言う。「然り。彼らは労苦を解かれて、安らぎを得る。その行いが報われるからである。」 |
NIV | Then I heard a voice from heaven say, "Write: Blessed are the dead who die in the Lord from now on." "Yes," says the Spirit, "they will rest from their labor, for their deeds will follow them." |
註解: 迫害のために殉教の死を遂ぐる者は勿論のこと凡て主に在りて信仰をもって死んだ死人は11節の人々とは反対に、非常に幸福なる人々である。そはこの世に生存するために人皆の免れ得ざる労苦はその死と共に息 むからである。そしてその業すなわち主に在るものの信仰より出づる行為は死と共に消滅せず彼らに随 いて永遠に遺 るが故である(迫害に耐えて立派にその信仰を維持することもその業である)。この一節は殉教の死に遭わんとする信徒をなぐさめまた力づけんがために言われたものではあるが、しかしこれは一般の死人に妥当なる普遍的真理である。
辞解
[今よりのち] 以前に信仰を有ちて死ねる者を除外する意味ではない。これは神学論ではなく現実の社会に向って言われし言であることを注意すべきである。
[主に在りて] パウロの好んで用いし語。
[御霊も言ひ給ふ] 「御霊言い給う」とすべく、「随 うなり」は「随 えばなり」と訳すべきである。御霊が天よりの声を説明し給うたのである。
[労役] kopos はこの場合は「労苦」と訳する方が適当である(Tテサ1:3)。
[その業] erga は信仰の働きで、死後も消滅することは無い。
註解: 14−20は信者の救いと不信者の審判を示す(ヨエ4:13)
14章14節 また
口語訳 | また見ていると、見よ、白い雲があって、その雲の上に人の子のような者が座しており、頭には金の冠をいただき、手には鋭いかまを持っていた。 |
塚本訳 | また私は(一つの異象を)見た。すると視よ、真白な雲があって、雲の上に人の子のような者が坐し、頭には金の冠を戴き、手には利き鎌を持ち給うた。 |
前田訳 | そしてわたしは見た。見よ、白い雲がある。雲に人の子に似たものが座し、頭にかざすは金の冠、手にするは鋭い鎌である。 |
新共同 | また、わたしが見ていると、見よ、白い雲が現れて、人の子のような方がその雲の上に座っており、頭には金の冠をかぶり、手には鋭い鎌を持っておられた。 |
NIV | I looked, and there before me was a white cloud, and seated on the cloud was one "like a son of man" with a crown of gold on his head and a sharp sickle in his hand. |
註解: 14−16節は人の子イエスが世の終りに凡ての信徒を刈り集めて天の倉庫に収め給う光景を描写している。かく未だ来らざる世の終りの光景を預見することはこれは本書の全体に共通せる点である。この収穫を為さんとして来り給う者は人の子イエス・キリストである。首 に金の冠冕 をいただきてその尊貴と勝利とを表明し給い、手には利 き鎌を持ちてまさに行わんとする刈入れに備え給う。
辞解
[白き雲] 光明、祝福を示す。
14章15節
口語訳 | すると、もうひとりの御使が聖所から出てきて、雲の上に座している者にむかって大声で叫んだ、「かまを入れて刈り取りなさい。地の穀物は全く実り、刈り取るべき時がきた」。 |
塚本訳 | するともう一人(他の、第四)の天使が(天の)聖所から出て来て、雲の上に坐し給う者に大声で叫んだ、「汝の鎌を入れて刈り取れ。刈り取るべき時が来た、他の穀物は(既に)熟したのだから。」 |
前田訳 | 別の天使が宮を出、大声で雲に座すものに叫ぶ、「そなたの鎌を差し出してお刈り取りを。刈り入れの時は来ました。地の実りは熟しすぎています」と。 |
新共同 | すると、別の天使が神殿から出て来て、雲の上に座っておられる方に向かって大声で叫んだ。「鎌を入れて、刈り取ってください。刈り入れの時が来ました。地上の穀物は実っています。」 |
NIV | Then another angel came out of the temple and called in a loud voice to him who was sitting on the cloud, "Take your sickle and reap, because the time to reap has come, for the harvest of the earth is ripe." |
14章16節 かくて
口語訳 | 雲の上に座している者は、そのかまを地に投げ入れた。すると、地のものが刈り取られた。 |
塚本訳 | そこで雲の上に坐し給う者がその鎌を地上に投げ給うた。すると地(の穀物)は(たちまち)刈り取られた。 |
前田訳 | 雲に座すものはその鎌を地へと投げ、地は刈り取られた。 |
新共同 | そこで、雲の上に座っておられる方が、地に鎌を投げると、地上では刈り入れが行われた。 |
NIV | So he who was seated on the cloud swung his sickle over the earth, and the earth was harvested. |
註解: この刈入れは、マタ13:30のごとく毒麦と麦とを分つためではなく、専ら良き穀物の収穫と解すべきである。
辞解
[ほかの御使] 第四の御使で神より遣されてキリストに神の御旨を伝えんため聖所より出でしものである。キリストは神の命なしには何事をもなし給わない(ヨハ5:19)、ゆえに「雲の上に坐したまふ者」は御使の言に従う故にこの御使よりも以下の者で従ってキリストではないと解する説があるけれどもこれは誤っている。
[地は刈り取られたり] かくして地上に在る凡ての信徒はキリストの再臨によりて地の諸方より集められ、神の国の民として天国の倉に貯えられる。
[地に入れ] 原語「地に投げ入れ」というごとき強き意味。
註解: 17−20は葡萄の
酒槽 を踏む譬をもって不信者の審判を示す。たしかに葡萄は神の憤恚 の葡萄酒(黙14:10)を連想せしめ、イザ63:2−3のごとき思想を表顕するに相応しいからである。
14章17節
口語訳 | また、もうひとりの御使が、天の聖所から出てきたが、彼もまた鋭いかまを持っていた。 |
塚本訳 | またもう一人(他の、第五)の天使が天にある(神の)聖所から出て来た。彼もまた(その手に)利き鎌を持っていた。 |
前田訳 | すると別の天使が天の宮から出た。彼も鋭い鎌を持つ。 |
新共同 | また、別の天使が天にある神殿から出て来たが、この天使も手に鋭い鎌を持っていた。 |
NIV | Another angel came out of the temple in heaven, and he too had a sharp sickle. |
註解: これは第五の御使であり、聖所より出でしを見れば同じく神より遣されし御使に相違ない。ただし自ら葡萄を刈り取るために鎌を持つことは14節のメシヤが自ら鎌を持ち給うのと異なる(異ならない:編者)点であるが、信者の収穫にはキリスト自ら当り給い、不信者の審判には天使がこれに当ることは聖霊の智慧による微妙なる区別であることに注意すべきである。
14章18節
口語訳 | さらに、もうひとりの御使で、火を支配する権威を持っている者が、祭壇から出てきて、鋭いかまを持つ御使にむかい、大声で言った、「その鋭いかまを地に入れて、地のぶどうのふさを刈り集めなさい。ぶどうの実がすでに熟しているから」。 |
塚本訳 | すると火の支配権を有つもう一人(他の、第六)の天使が祭壇から出て来て、利き鎌を持つ天使に大声で叫んで言うた、「汝の利き鎌を入れて、地の葡萄樹の房を刈り集めよ。葡萄は(もうすっかり)熟し切ったのだから。」 |
前田訳 | また別の天使が祭壇から出た。彼は火をつかさどる力を持ち、大声で鋭い鎌を持つものに呼びかけた。いわく、「その鋭い鎌を差し出して、地のぶどうの木の房を取り入れよ。そのぶどうは熟したから」と。 |
新共同 | すると、祭壇のところから、火をつかさどる権威を持つ別の天使が出て来て、鋭い鎌を持つ天使に大声でこう言った。「その鋭い鎌を入れて、地上のぶどうの房を取り入れよ。ぶどうの実は既に熟している。」 |
NIV | Still another angel, who had charge of the fire, came from the altar and called in a loud voice to him who had the sharp sickle, "Take your sharp sickle and gather the clusters of grapes from the earth's vine, because its grapes are ripe." |
註解: ここに第六の御使が顕現する。火を掌 ることと祭壇より出て来ることより見て黙8:3−5に録されし御使に相当する。すなわち香を焼きて聖徒の祈りを神にささげ、その香炉の火を地に擲 ちて審判を行う。ゆえに葡萄の酒槽 を踏むことは審判を意味す。この御使が第五の御使に葡萄がすでに熟したる故これを刈り収 むべきことを言伝える。
辞解
[祭壇] 黙6:9の燔祭の壇と見るよりも黙8:3−5の香壇と見るを可とす。
14章19節
口語訳 | そこで、御使はそのかまを地に投げ入れて、地のぶどうを刈り集め、神の激しい怒りの大きな酒ぶねに投げ込んだ。 |
塚本訳 | そこで天使はその鎌を地に投げ入れて地の葡萄樹を刈り集め、(それを)神の憤怒の大きな酒槽に投げ込んだ。 |
前田訳 | 天使は鎌を地へと投げ、地のぶどうを取り入れ、神の怒りの大きな酒ぶねに投げ入れた。 |
新共同 | そこで、その天使は、地に鎌を投げ入れて地上のぶどうを取り入れ、これを神の怒りの大きな搾り桶に投げ入れた。 |
NIV | The angel swung his sickle on the earth, gathered its grapes and threw them into the great winepress of God's wrath. |
14章20節 かくて
口語訳 | そして、その酒ぶねが都の外で踏まれた。すると、血が酒ぶねから流れ出て、馬のくつわにとどくほどになり、一千六百丁にわたってひろがった。 |
塚本訳 | 酒槽は町の外で踏まれた。そして血が酒槽から(流れ)出て、(深さ)馬の轡に達し、(広さ)千六百町歩に及んだ。 |
前田訳 | 酒ぶねは都の外で踏まれた。すると酒ぶねから血が流れ出、馬の手綱にとどき、千六百スタデオにひろがった。 |
新共同 | 搾り桶は、都の外で踏まれた。すると、血が搾り桶から流れ出て、馬のくつわに届くほどになり、千六百スタディオンにわたって広がった。 |
NIV | They were trampled in the winepress outside the city, and blood flowed out of the press, rising as high as the horses' bridles for a distance of 1,600 stadia. |
註解:酒槽 を踏む時葡萄酒はあたかも血のごとくに流れ出でる、この光景は罪人が審 かれて血を流す時の姿に類似しているのでこれを審判の光景の表徴として用いたのである(イザ63:3−6参照)。そしてこの審判の血は神の民の住むべき新しきエルサレムの都の外において流され、非常なる広袤 に達している。神に背ける者の審判の恐るべき有様を髣髴 せしむ。
辞解
[馬の轡 ] エノク書の中にこれに類似する形容あり、血の流される分量の大なることを示す。
[一千六百町] 意味は多くの学者により非常に難解と称せられているけれども地を意味する数四と人間としての充分さを示す十との積四十を自乗して、地的人間的なるものの受くべき審判の範囲の全体を示したるものと解すべきことは明かである。すなわち神の怒の審判は神の民の住むべき新しきエルサレムには触れないけれどもその外において地の全体に及んでいる。なおこの千六百町は「パレスチナの延長」、「紅海の長さ」等と解されまたは漠然と「完全」を意味すと見られているけれども何れも不充分なる解釈である。
[都の外] 昔刑を受ける者は都の外においてこれを受けた(ヨエ4:12)。この思想をヨハネはここに援用したのである。
要義 [第14章の意義]第12、13章における教会とその迫害との光景の後を受けて本章はキリスト者に対する慰安の光景を示す。天のエルサレムにおける聖徒の大軍の讃美(1−5節)、福音の宣伝(6−7節)、バビロン覆滅 の宣言(8節)、獣を拝する者の審判(9−12節)、主にある死者の幸福(13節)、天の刈り入れ(14−16節)と酒槽の審判(17−20節)等七つの項目に別けて黙示文学の特徴を示し、何れも迫害と患難の中にある教会にとりて絶大の希望を供給し、深き慰安を与えるところの光景である。今日のキリスト者といえどもこれと同様であって、この世とこれを支配するサタンの力の下にありて本章の光景を思い浮べるならば、如何なる迫害の下においても希望を失わずにその信仰を保持することができる。